親が外に出なくなった理由は「転ぶのが怖い」かもしれない

〜外出減少と転倒不安、認知機能の関係〜

「最近、親が外に出なくなった気がする」

「前は散歩や買い物に行っていたのに、家にいる時間が増えた」

「誘っても、“今日はやめておく”と言うことが多くなった」

そんな変化に気づいたとき、ご家族は少し不安になると思います。

特に離れて暮らしている場合は、毎日の様子が分からないからこそ、「体力が落ちているのかな」「認知機能が低下しているのかな」「このまま閉じこもってしまわないかな」と心配になるかもしれません。

まず、お伝えしたいのは、外に出ない=やる気がない、とは限らないということです。

高齢者の外出減少の背景には、実は「転ぶのが怖い」という転倒不安が隠れていることがあります。

今回は、外出減少と転倒不安、そして認知機能との関係について、わかりやすくご紹介します。


外出減少の背景に「転倒不安」があることも

年齢を重ねると、筋力やバランス能力、歩く速さなどに少しずつ変化が出てきます。

以前は何も考えずに歩けていた道でも、段差が気になったり、人混みが怖くなったり、信号を渡り切れるか不安になったりすることがあります。

そうした経験があると、本人は少しずつ外出を避けるようになることがあります。

これは、単なる「面倒くさい」ではありません。

「転んだらどうしよう」
「人に迷惑をかけたくない」
「外で何かあったら不安」

そんな気持ちが、外に出る一歩を重くしている場合があります。

特に、一度転んだ経験がある方や、転びそうになって怖い思いをした方は、外出に対して慎重になりやすくなります。


転倒不安は、生活の範囲を狭めることがあります

転ぶことが怖くなると、外に出る機会が減ります。

外に出る機会が減ると、歩く量が減ります。歩く量が減ると、筋力やバランス能力がさらに低下しやすくなります。

すると、ますます外出が怖くなる。

このように、転倒不安は生活の範囲を少しずつ狭めてしまうことがあります。

実際に、転倒への不安は、外出や日常活動の制限、身体機能の低下、生活の質の低下と関係することが報告されています。

私がこれまで関わってきた方の中にも、「外に出るのが面倒」と話されていた方がいました。

しかし、よくお話を聞いてみると、本当は外に出たくないのではなく、「また転んだらどうしよう」「家族に迷惑をかけたくない」という不安がありました。

ご家族から見ると“やる気がない”ように見えても、本人の中には、外に出たい気持ちと怖さの両方があることがあります。

だからこそ、「なぜ外に出ないのか」ではなく、
「どうしたら安心して外に出られるのか」
を一緒に考えることが大切です。

また、外出が減ることで、人と話す機会や、季節を感じる機会、買い物や趣味を楽しむ機会も減りやすくなります。

認知機能を支えるためには、日々の刺激が大切です。

外に出ることは、歩くだけではありません。

周囲を見る。
道を考える。
人と話す。
予定を立てる。
買い物をする。

こうした外出の中には、脳と身体を使う刺激がたくさん含まれています。

そのため、外出減少は「歩かないこと」だけの問題ではなく、身体機能、認知機能、気持ち、人とのつながりにも関わる大切なサインです。


家族が気づきやすいサイン

ご家族から見ると、「最近、外に出なくなった」と感じるだけかもしれません。

しかし、その背景にはいくつかの変化が隠れていることがあります。

例えば、歩く速度が遅くなった、玄関の段差を慎重に降りるようになった、手すりを探すことが増えた、外出前に「今日はやめておこうかな」と言うことが増えた。

こうした変化は、本人が外出に不安を感じ始めているサインかもしれません。

また、本人は「転ぶのが怖い」とはっきり言わないこともあります。

「今日は疲れているから」
「天気が悪いから」
「行きたいところもないから」

そうした言葉の裏に、実は転倒への不安が隠れている場合もあります。

大切なのは、外に出ないことを責めるのではなく、なぜ外に出にくくなっているのかを一緒に考えることです。


「外に出なさい」より「どうしたら安心して出られるか」

ご家族はつい、

「もっと歩いた方がいいよ」

「運動しないと足腰が弱るよ」

「家にいてばかりじゃダメだよ」

と言いたくなるかもしれません。

もちろん、身体を動かすことは大切です。

ただ、本人が不安を感じている状態で無理に外出をすすめると、かえって負担になってしまうこともあります。

大切なのは、「外に出なさい」ではなく、「どうしたら安心して外に出られるかな?」を一緒に考えることです。

最初から長い距離を歩く必要はありません。

玄関先まで出る。近くのコンビニまで一緒に歩く。人が少ない時間に散歩する。杖や靴を見直す。段差の少ない道を選ぶ。

小さな一歩からで大丈夫です。

また、運動は転倒への不安を軽くする可能性があることも報告されています。

大切なのは、急に頑張ることではありません。

安全な環境で、少しずつ身体を動かし、「歩けた」「外に出られた」という感覚を取り戻していくことです。


ご家族だけで抱え込まない

親の外出減少が気になったとき、ご家族だけで何とかしようとする必要はありません。

転倒不安の背景には、筋力やバランス能力の低下、視力の変化、足の痛み、薬の影響、住環境の問題など、さまざまな要因が関わることがあります。

そのため、必要に応じて、かかりつけ医や理学療法士、地域包括支援センターなどに相談することも大切です。

また、家の中の環境を整えることも、外出への自信につながる場合があります。

玄関や廊下の段差を見直す。履きやすく、滑りにくい靴を選ぶ。夜間の照明を明るくする。床に物を置きすぎない。

こうした小さな工夫が、「歩くことへの安心感」につながります。

一人で頑張るのではなく、頼れる人やサービスを上手に活用しながら、安心して動ける環境を整えていくことが大切です。


まとめ

親が外に出なくなると、ご家族は「認知機能が落ちてきたのでは」「体力がなくなってきたのでは」と不安になるかもしれません。

しかし、外に出ない理由は、単なるやる気の問題ではないことがあります。

その背景には、
転ぶのが怖い
歩く自信がない
人に迷惑をかけたくない
という気持ちが隠れているかもしれません。

大切なのは、外出しないことを責めることではありません。

まずは、本人が何に不安を感じているのかを知ること。そして、その人に合った方法で、安心して動ける環境を一緒に整えていくことです。

認知機能を支えるために大切なのは、特別なことだけではありません。

歩くこと。外の景色を見ること。人と話すこと。季節を感じること。自分の足で行きたい場所へ向かうこと。

その一つひとつが、脳と身体を支える刺激になります。

認知トレーニングセンターNELA では、脳トレーニングと身体トレーニングを組み合わせながら、ご本人が「まだできる」「もう一度出かけてみよう」と感じられる習慣づくりを大切にしています。

“まだ良くなれる”という確信は、安心して踏み出せる小さな一歩から始まります。


参考資料

・Schoene D, et al. A systematic review on the influence of fear of falling on quality of life in older people
・Deshpande N, et al. Activity restriction induced by fear of falling and objective and subjective measures of physical function
・CDC:Facts About Falls
・Kendrick D, et al. Exercise for reducing fear of falling in older people living in the community
・The Lancet Commission 2024:Dementia prevention, intervention, and care