「最近、物忘れが増えた気がする」
「同じ話をすることが増えた」
「約束や予定を忘れることがある」
そんな変化に気づいたとき、ご本人もご家族も不安になると思います。
認知機能の変化について調べていると、MCIという言葉を目にすることがあります。MCIとは、英語の Mild Cognitive Impairment の略で、日本語では軽度認知障害と呼ばれます。
ここでまず大切なのは、MCIは「軽度認知症」ではないということです。
軽度認知障害と軽度認知症は、似た言葉に見えますが意味は異なります。MCIは、年齢相応より記憶力や注意力、判断力などの認知機能に低下がみられるものの、日常生活の自立はおおむね保たれている状態を指します。
一方で、認知症では認知機能の低下によって、仕事、家事、金銭管理、服薬管理、外出などの日常生活に明らかな支障が出てきます。
つまり、MCIは「認知症そのもの」ではなく、正常な加齢による変化と認知症の中間に位置づけられる状態と考えられています。
MCIとはどのような状態か
MCIでは、本人や家族が「前と少し違う」と感じることがあります。
例えば、最近の出来事を思い出しにくくなったり、約束を忘れたり、会話の中で言葉が出にくくなったりすることがあります。また、複数のことを同時に行うのが苦手になったり、予定を立てて行動することに時間がかかったりすることもあります。
ただし、MCIの場合は、こうした変化があっても、日常生活の多くは自分で行えます。食事、着替え、入浴、近所への外出など、基本的な生活は保たれていることが多いです。
ここが認知症との大きな違いです。
MCIは「物忘れがあるかどうか」だけで判断するものではありません。記憶、注意、言語、判断、計画、空間認識など、さまざまな認知機能と日常生活の状態を合わせて考える必要があります。

年齢による物忘れとMCIの違い
年齢を重ねると、誰でも物忘れは起こりやすくなります。
例えば、人の名前がすぐに出てこない、何を取りに来たのか一瞬忘れる、昔より覚えるのに時間がかかる。こうした変化は、加齢に伴ってよくみられます。
一方で、MCIでは、同じ年代の人と比べて記憶や思考の問題がやや目立つようになります。
例えば、最近の約束を何度も忘れる、同じ質問を繰り返す、予定管理が難しくなる、料理や買い物の段取りに時間がかかる、といった変化がみられることがあります。
ただし、ここでも大切なのは、一つの出来事だけで判断しないことです。
「名前が出てこないからMCI」
「一度予定を忘れたから認知症」
というわけではありません。
その人らしい生活が保たれているか。以前と比べて変化が続いているか。家族や周囲が気づくほどの変化があるか。こうした点を総合的に見ることが大切です。
MCIにはタイプがあります
MCIには、大きく分けて記憶の低下が目立つタイプと、記憶以外の認知機能の低下が目立つタイプがあります。
記憶の低下が目立つ場合は、最近の出来事や約束を忘れやすくなることがあります。これは、アルツハイマー病との関連が注目されることもあります。
一方で、記憶よりも注意力、判断力、言葉、空間認識、段取り力などの低下が目立つ場合もあります。例えば、料理の手順が分かりにくくなる、道に迷いやすくなる、会話の理解に時間がかかる、複数のことを同時に行うのが難しくなるといった変化です。
つまり、MCIといっても、すべての人が同じ症状を示すわけではありません。
「記憶だけを見る」のではなく、その人の生活全体の変化を見ることが大切です。
MCIは必ず認知症に進むわけではありません
MCIと聞くと、「このまま必ず認知症になるのでは」と不安になる方も多いと思います。
しかし、MCIは必ず認知症に進行するわけではありません。
研究では、MCIの方は認知症へ進行するリスクが高いことが示されています。一方で、長期間大きく変化しない方や、認知機能が改善する方もいます。進行の割合は、年齢、原因、評価された場所、追跡期間、持病の有無などによって大きく変わります。
大切なのは、「MCIだから終わり」と考えることではありません。
MCIは、今の状態を知り、これからの生活習慣を見直す大切なタイミングです。
脳と身体に良い刺激を入れる。生活習慣を整える。運動を取り入れる。人と関わる機会を保つ。睡眠や栄養を見直す。必要に応じて医療につながる。
こうした小さな行動が、その人らしい生活を続ける力になります。
MCIの原因は一つではありません
MCIの背景には、さまざまな要因が関わることがあります。
アルツハイマー病の初期変化が関係する場合もあれば、脳血管の変化、生活習慣病、睡眠障害、うつ状態、薬の影響、聴力や視力の低下、栄養状態、甲状腺機能やビタミン不足などが関係することもあります。
そのため、MCIが疑われる場合は、自己判断だけで決めつけないことが大切です。
「年だから仕方ない」と放置するのではなく、かかりつけ医や物忘れ外来、専門医に相談することで、原因を確認できる場合があります。
中には、治療や生活改善によって改善が期待できる要因が隠れていることもあります。
受診では何を確認するのか
MCIが気になる場合、医療機関では、問診、認知機能検査、日常生活の確認、血液検査、画像検査などを組み合わせて評価することがあります。
本人の話だけでなく、ご家族から見た変化も大切な情報になります。
例えば、同じ話が増えたのか、予定管理が難しくなったのか、服薬や金銭管理に変化があるのか、外出や趣味が減ったのか。こうした生活の変化は、診断や今後の支援を考えるうえで重要です。
受診の目的は、ただ「診断名をつけること」だけではありません。
今の状態を知り、これから何に気をつけるか、どのような生活習慣を整えるか、家族がどう支えれば良いかを考えるための大切な機会です。
MCIの段階でできること
MCIに対して、現時点で「これをすれば必ず治る」という方法が確立されているわけではありません。
一方で、運動、認知トレーニング、社会参加、睡眠、栄養、生活習慣病の管理などが、認知機能を支えるうえで重要だと考えられています。
特に運動は、MCIの方の認知機能に良い影響を与える可能性が複数の研究で報告されています。また、身体を動かしながら頭も使うような身体・認知の複合的なトレーニングも注目されています。
MCIの段階では、「できなくなったこと」だけを見るのではなく、まだできることを活かしながら、生活の中に脳と身体を使う習慣を作ることが大切です。
例えば、散歩をする、軽い筋力トレーニングをする、家事を続ける、人と会話する、趣味を続ける、新しいことに少し挑戦する。こうした日常の積み重ねが、脳への刺激になります。
家族ができること
ご家族は、本人の変化に気づくと不安になり、「ちゃんとして」「忘れないで」「病院に行って」と言いたくなることがあるかもしれません。
しかし、本人も自分の変化に気づき、不安を感じていることがあります。
大切なのは、責めることではなく、一緒に整理することです。
「最近、少し気になることがあるから、一緒に相談してみようか」
「生活を楽にするために、今の状態を確認してみようか」
「何ができるか、一緒に考えてみよう」
このように、本人の不安やプライドを大切にしながら声をかけることが大切です。
また、家族が変化を記録しておくことも役立ちます。いつ頃から変化があったのか、どんな場面で困りごとがあるのか、日常生活にどの程度影響しているのか。そうした情報は、医療機関や支援者に相談するときに役立ちます。
MCIは「閉じる」ではなく「整える」タイミング
MCIと聞くと、不安になるのは自然なことです。
しかし、MCIは「もう何もできない」という意味ではありません。
むしろ、今の状態に気づき、生活を整え、脳と身体への刺激を増やしていくための大切なタイミングです。
認知機能は、記憶だけで成り立っているわけではありません。注意力、判断力、言葉、段取り力、身体の動き、人との関わり、生活習慣など、さまざまな要素が関係しています。
だからこそ、MCIへの対応も一つではありません。
医療で状態を確認すること。運動を取り入れること。脳を使う習慣を作ること。社会とのつながりを保つこと。家族だけで抱え込まず、相談先を持つこと。
その一つひとつが、これからの生活を支える力になります。

まとめ
MCIとは、Mild Cognitive Impairmentの略で、日本語では軽度認知障害と呼ばれます。
年齢相応より認知機能の低下がみられるものの、日常生活の自立はおおむね保たれている状態です。
MCIは認知症そのものではありません。また、必ず認知症に進行するわけでもありません。
大切なのは、今の変化を正しく知り、必要な相談につながり、その人に合った生活習慣を一緒に作っていくことです。
認知トレーニングセンターNELAでは、脳トレーニングと身体トレーニングを組み合わせながら、MCIの段階から「まだできる」「やってみよう」と感じられる習慣づくりを大切にしています。
“不安”で終わらせるのではなく、これからできることを一緒に見つけていく。
MCIは、その第一歩を考えるための大切なサインでもあります。
