〜触覚と認知症・脳への刺激のつながり〜
「最近、手先を使う作業が減った気がする」「ボタンを留めるのに時間がかかるようになった」「物を落とすことが増えた」。そんな変化に気づくことはありませんか。
五感というと、視覚や聴覚、嗅覚に注目が集まりやすいですが、実は「触覚」も日常生活や認知機能と深く関わっています。触覚とは、皮膚で感じる「触れる」「圧を感じる」「温かい・冷たいを感じる」といった感覚のことです。
しかし、触覚はただ物に触れる感覚だけではありません。箸を持つ、服のボタンを留める、財布から小銭を取り出す、足裏で床の感覚を感じながら歩く。こうした何気ない動作にも、触覚を含む感覚と脳の働きが関わっています。
今回は、触覚と認知機能、認知症との関係について、わかりやすくご紹介します。

触覚は、生活を支える大切な感覚
私たちは、手や足、皮膚からたくさんの情報を受け取っています。例えばコップを持つときには、重さや硬さ、滑りやすさを感じながら力加減を調整しています。歩くときには、足裏で床の硬さや段差を感じながら、身体のバランスを取っています。
つまり、触覚は「感じる」だけの感覚ではありません。身体を動かすこと、道具を使うこと、日常生活を安全に行うことにも関わっています。
近年では、軽度認知障害やアルツハイマー病の方において、触覚を含む体性感覚の処理に変化がみられる可能性も報告されています。例えば、触って形を判別する力に変化が出る可能性があるという報告もあります。
もちろん、触覚が変化したからといって、すぐに認知症というわけではありません。ただ、手先の感覚や足裏の感覚は、脳の働きや生活動作と無関係ではないということです。
触れる機会が減ると、生活の刺激も減りやすい
認知機能を支えるためには、日々の刺激が大切です。見る、聞く、嗅ぐ、味わう、触れる。その一つひとつが、脳にとっての刺激になります。
特に触覚は、生活の中に自然に入り込んでいる感覚です。料理をする、洗濯物をたたむ、花や土に触れる、手芸をする、道具を使う。こうした活動では、手先の感覚だけでなく、注意力や段取り力、記憶、身体の動きも使っています。
つまり、触れる活動は、単なる手作業ではありません。脳と身体を一緒に使う、日常の中の大切な刺激です。
触れるケアが、安心感につながることもあります
認知症の方へのケアでは、マッサージや手に触れるケアなど、触覚を使った関わりも研究されています。近年の研究では、マッサージやタッチが、認知症の方の興奮や行動面の落ち着きに短期的に良い影響を与える可能性が報告されています。
ただし、ここで大切なのは「触れれば必ず良い」という話ではないことです。人によっては、触れられることが苦手な方もいます。無理に手を握ったり、マッサージをしたりするのではなく、本人が安心できるかどうかを見ながら関わることが大切です。
手に触れる、背中をさする、肌ざわりの良いタオルや布に触れる、昔から好きだった手作業を一緒に行う。そうした小さな関わりが、安心感や落ち着きにつながることがあります。

家族が気づきやすいチェックリスト
触覚や手先の感覚の変化は、本人が自分で気づきにくいこともあります。ご家族が日常の中で見やすいポイントとして、次のような変化があります。
- ボタンやファスナーに時間がかかるようになった
- 小銭や薬など、小さい物を扱いにくそうにしている
- 箸やスプーンを落とすことが増えた
- 料理、手芸、園芸など手を使う活動が減った
- 足元を不安がる、スリッパを引っかけやすくなった
- 人に触れられることを嫌がる、または過敏になった
これらがあるからといって、すぐに認知症というわけではありません。大切なのは、一つの変化だけで判断するのではなく、生活全体の変化として見ることです。
家族ができること
触覚への刺激は、特別な道具がなくても日常の中で取り入れられます。例えば、料理で食材に触れる、洗濯物をたたむ、花や土に触れる、タオルや木の道具など触って心地よい素材を使う。昔から好きだった手作業を一緒に行うことも良い刺激になります。
大切なのは、難しい課題をさせることではありません。「これならできそう」「これは気持ちいい」「昔よくやっていた」と感じられる活動を選ぶことです。
また、足裏の感覚も生活に関わります。歩くときには、足裏で床の硬さや段差を感じています。足元が不安定な方には、靴やスリッパ、床の環境を見直すことも大切です。
触覚は、安心感にもつながる感覚です。ただし、触れられることが苦手な方もいます。本人の表情や反応を見ながら、無理のない形で関わることが大切です。

まとめ
触覚は、ただ「触れる」だけの感覚ではありません。手先を使うこと、足裏で床を感じること、物の重さや硬さを感じること、人との関わりの中で安心を感じること。その一つひとつが、脳と身体への刺激になります。
認知機能を支えるために大切なのは、特別なことだけではありません。日常の中で五感を使い、身体を動かし、人と関わること。その積み重ねが、その人らしい生活を支える力になります。
NELAでは、五感への刺激、脳トレーニング、身体トレーニングを組み合わせながら、ご本人が「まだできる」「やってみよう」と感じられる習慣づくりを大切にしています。
“まだ良くなれる”という確信は、日常の小さな刺激から始まります。
参考資料
・Xu J, et al. Tactile discrimination as a diagnostic indicator of cognitive decline in patients with mild cognitive impairment: A narrative review
・Liu X, et al. Effect of Massage and Touch on Agitation in Dementia: A Meta-analysis
・Schaub C, et al. The Effects of Hand Massage on Stress and Agitation Among People with Dementia
・Sánchez A, et al. Multisensory Stimulation for People With Dementia
・Octary T, et al. Multisensory stimulation reduces neuropsychiatric symptoms and enhances cognitive function in older adults with dementia
